音楽の二次創作
原作にアレンジを加える二次創作は、著作権との関係で問題となることがあります。今回は、替え歌を題材に、二次創作における法的問題について考えたいと思います。
替え歌はパロディの是非とともに問題にあげられることがあります。(パロディの定義については、<パロディってなに>を読んでみてください。)
替え歌は著作物である歌を元にしたものですので、著作権が問題となります。
原作の著作権が消滅している有名な替え歌
有名な替え歌に、
からす なぜなくの
からすのかってでしょ?
があります。これは1980年初頭に人気お笑い番組「8時だョ!全員集合」で、ザ・ドリフターズの志村けんが歌って流行した替え歌です。
原作は、1921年に野口雨情が作詞した「七つの子」で、元の歌詞は、
烏 なぜ啼くの
烏は山に
です。
「七つの子」の著作権は、1995年に消滅しています。従って、著作権消滅後であれば、自由にこの原作をコピーしたり、公に上演したりすることができます。ただし、著作権法では、著作者の死後も著作者の人格的利益を保護することを規定していますので、ドリフの替え歌が野口雨情の意に反したものであれば、遺族による差止請求が認められます。(著作者人格権については後述)
原作の著作権が存続している有名な替え歌
有名な替え歌に、
ずっと夢を見て 安心してた
僕は Day Dream Believer そんで
彼女はクイーン
があります。これは忌野清志郎が「ZERRY」名義で日本語詞を付けて1989年に発表した「デイ・ドリーム・ビリーバー」で、セブンイレブンのCMソングにも採用されている有名な曲です。
原作は、
Cheer up sleepy Jean
Oh, what can it mean to a
Daydream believer and a
Homecoming queen?
アメリカのアイドルグループ、ザ・モンキーズが1967年に発表した「デイドリーム・ビリーバー」で、ジョン・スチュワートが作詞・作曲しています。
日本語詞のなかでは、「Ah 今は彼女 写真の中で」とも歌われていて、忌野清志郎が亡き「母」への思いを込めた楽曲で、原作とは世界観が違うことがわかります。
「デイドリーム・ビリーバー」の著作権は、現在も存続しています。そして著作物を翻訳、翻案(本質的な特徴を維持しつつ新たな著作物を創作)する権利は著作者が有する著作権の一つです。従って、替え歌を作るには原著作者の許諾が必要になります。
原著作者の許諾を得て使用する場合、通常、所定の使用料を原著作者に支払います。(著作物使用料については後述)
つまり、原作の著作権が存続している場合に、替え歌を商品化する場合は、原著作者の許諾が必要になるということです。(商品化の定義については、<商品化ってなに>を読んでみてください。)
まとめ 二次創作における法的問題
二次創作とは、第三者が原作を元に原作に類似する新たな作品を創作することです。この著作物を変形し、翻案する権利は上記した通り、原著作者の著作権の一つです。
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
二次創作には原著作者の許諾が必要
著作権は、複製権、公衆送信権、翻訳権、翻案権など複数の権利からなり、著作物を利用するときは、それぞれの権利に対して、原著作者の許諾が必要となります。そのため、替え歌などにより著作物を改変する場合も、原著作者の許諾が必要となります。
著作物使用料にも留意する必要がある
原著作者の許諾を得て使用する場合、通常、所定の使用料を原著作者に支払う必要があります。JASRACの音楽著作物使用料の例では、CDなどの販売であれば定価の6%を支払うものとされています。(出典:一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)HP http://www.jasrac.or.jp/info/create/cal01.html 市販用CD・録音テープ(定価の明示のある場合)の使用料の計算方法より)
著作権消滅後、自由に替え歌が作れるか?
著作権は、創作と同時に発生し、原則として著作者が亡くなって50年が経過すると消滅しますので、保護期間が満了した著作物は、著作権者の許諾なく利用できます。しかしながら、著作者が亡くなった後においても、著作者人格権の侵害となるべき行為(著作者が望まない改変などの行為)(後述)は原則、禁止されています(著作権法第60条)。
著作者人格権による制限がある
上述したように著作者は、人格や名誉に関わる部分を保護する著作者人格権も持っていますので、替え歌などにより著作物を改変する場合、著作者人格権による制限があります。
著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権からなりますが、同一性保持権は著作物の内容やタイトルを自分の意に反して変えられないという権利です。そのため、改変の仕方によっては、著作者人格権が問題になることがあります。
さらに、著作権法には“著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。”(著作権法第60条)とあります。改変の仕方が著作者の意に反したものであれば、遺族による差止請求が認められます(著作権法第112条、第116条)。
著作者人格権は著作権の権利者と異なる場合がある
著作権は財産権で、他人に譲渡することができますが、著作者人格権は、著作者だけが持つことのできる権利(一身専属)で、他人に譲渡することはできません。そのため、著作者人格権については著作権の権利者と異なる場合がありますので、著作者人格権について了解を得る場合には注意が必要になります。