イラストのトレース行為
最近、予備校の広告掲載キャラクターが、著名な映画のイラストに酷似しているということで、話題になっています。
https://togetter.com/li/1205135
http://blog.esuteru.com/archives/9068866.html
トレース行為は、クリエーターに著作物の制作を依頼する企業などの版元にとっても、大きな問題となる可能性がありますので、それぞれ立場で気をつけることをまとめてみました。
- 企業などの版元が気をつけること
- クリエーターが気をつけること
- 法律にまつわる問題
※「トレース(trace)」とは「原図の上に薄紙を載せ、敷き写しをすること」
企業などの版元が気をつけること
クリエーターのトレース行為により、企業が採用した作品に著作権侵害の疑いがかかった瞬間、その企業の評判に関わってきます。
企業がクリエーターに著作物の制作を依頼するときは、著作権侵害の疑いが少しでもある著作物については採用しない方針や、下手をするとクリエーターにも責任が生じることを伝えます。
また、著作権の侵害に関するチェックリストを作成し、クリエーターに誓約してもらうことが有効です。
クリエーターが気をつけること
法的には、
- 作品を独自に創作したものであること
- 原図を参考にするのはOKだが、原図に類似していないこと
を挙げることができます。
ただし、法的に問題がなくても、読者や原作者の心証上、問題に発展することがあります。そうしたリスクを回避するためには、
- 少しでも疑いがかかる行為は控える
- どうしても使いたい場合は事前に権利者の承認をもらう
といった対応を挙げることができます。
法律にまつわる問題
構図を参考にしてもデザインが別物であれば、著作権侵害の可能性は低い
世間的には、トレース行為はどんなものでも著作権侵害だ、と誤解している人も多いかもしれません。
著作権法が保護するのは表現そのものなので、例えば元キャラのポーズなどを参考にしても(真似しても)、キャラデザインそのものが別物であれば(トレース後のデザインが元キャラと非類似であれば)、これは元キャラとは別の表現物として著作権が成立することになります。つまり、著作権侵害の可能性は低いです。
予備校の広告掲載キャラクターの問題では、構図がまったく同じであってもキャラデザインが非類似であれば、著作権法上の問題になる可能性は低いです。
構図、ストーリー、人物設定などのアイデアそのものは保護されない
構図の問題を含め、他作品のストーリーや登場人物の設定のパクリ疑惑もときどき話題になっています。
しかしながら、構図やストーリー、人物設定に施された工夫は著作権というよりアイデアの問題です。こうしたアイデア要素は著作権法では保護されません。
構図やストーリー、登場人物の設定が酷似していること事体は読者や原作者の心証にとっては大きな問題ですが、表現物として別物であるのなら著作権法的には全く問題ないということになります。
独自に創作したものであれば、別物として著作権が成立する
著作権法上は類似する表現物であっても、それが独自に創作したものであれば(偶然に類似物ができてしまったのであれば)、別物として著作権が成立します。
著作権侵害になる可能性がある行為
イラストのトレースなどの行為が著作権侵害になるかどうかは、次の点を見て判断する必要があります。
- 原図が著作物かどうか(著作権法で保護対象となる表現物と言えるかどうか)
- 著作権存続期間内かどうか(原則、著作者が亡くなってから50年経っているかどうか)
- 私的な使用かどうか(家庭的な範囲内の行為かどうか)
ある行為が著作権侵害になるかどうかは、原図が著作物で、著作権の期間内に、私的な使用を超える場合に検討することになります。
これをチャート化してみました。チャートはかなり簡易的ですが、それぞれ判断が容易ではないことも多いです(詳細は割愛)。
著作物・存続期間・私的使用の判断チャート

トレースは著作権侵害になる?
あるキャラクター(原図)をトレースする場合、どのような場合に著作権侵害になるか考えてみましょう。
下図のとおり、元キャラを忠実に転写する場合(トレース1)や、別キャラに描きかえる場合で、別キャラへの描きかえが元キャラに類似する場合(トレース2)は、著作権侵害になる可能性が高いです。
別キャラに描きかえる場合で、完全に元キャラとは非類似な別キャラになっている場合(トレース3)は、著作権侵害になる可能性は低いです。
トレースのタイプ

著作権侵害の判断チャート
